発酵と醸造から学ぶ 日本の食文化「熟成」の原点
熟成肉や塩麹など時間をかけてじっくり旨味を凝縮させた食品に人気があつまる昨今、同じ熟成を利用した食べ物であり、日本の食文化に深く根付いてきた日本酒の「熟成」と発酵について学びました。特別講師としてご登壇いただいたのは、自らの足で全国の酒蔵やお米の生産者を回り、こだわりのお酒を開発する酒卸問屋であり「発酵醸造」の専門家、㈱片山の片山 雄介氏です。
片山氏は若くして大病を患った経験から、「農と発酵醸造文化の継承」を目的に家業の酒屋を継ぐことを決意。生産者さんや酒蔵と手を取り合って、大手メーカーが扱わないニッチな日本酒を広めてこられました。そして、「お酒業界の衰退の原因は売れるお酒だけを作るという世の中のニーズに偏りすぎた結果にある」と訴えられています。
本当に良いお酒は素材の味を引き出し、時間をかけて熟成させても酵母がずっと生き続けているのだそうです。日本酒を造るときに出る「酒粕」は酵母が豊富で栄養価が非常に高く、酒粕をろ過した「お酒」のほうが栄養成分的には“かす”にあたるのだとか!
お酒を仕込むときに必要な三つの素材は「米」「糀」「水」ですが、水の代わりにお酒を使用した「百年貴醸酒」の酒粕はまさに栄養の塊。現在この酒粕を「糀の調べ」という名前で商品化しようとしておられ、その貴重なサンプルを参加者の皆さんにプレゼントしていただきました。お話の中では、蔵元と共同開発された5種類のお酒の試飲もあり、皆さん興味津々で味の違いや香りを確かめておられました。
続いてご登壇いただいたのは、熊本で日本初の自然食ビュッフェレストランをはじめられた株式会社ティアの元岡 健二氏。元岡氏は片山氏とタッグを組んでお店のメニューに酒粕や発酵食品を積極的に取り入れておられます。
講演に先立ち、まずは試食体験から。栄養素がたっぷり入った酒粕「糀の調べ」に8日間付け込んだ茶美豚、同様に5日間漬け込んだ茶美豚、そして、漬け込みをしなかった茶美豚の3種類を食べ比べ、それぞれの味の違いを体感していただきました。「糀の調べ」を加えることによって風味や柔らかさが変わることを実感できたと同時に、生肉を漬け込むだけで8日間品質を損なわない上に、風味も増す酒粕の力に驚きました。
元岡氏は、熊本の震災で心が折れそうになっている中で、「お店をやめないで」とたくさんの人から声援を受けたこと、そして、新生「ティア」のテーマとして発酵醸造食品を日々の暮らしに生かす提案をしようと考えたことなど、声を震わせながら話されました。
会場は満員御礼で「熟成」への興味の高さが覗われました。難しいテーマではありましたが、参加者の皆さんからは、「新しい研究発表を聴いたような心地です」、「料理酒の重要性を改めて感じました」などのご意見をいただきました。レストランの役割の一つとして、より本質的な「食」を見つめ直し、日常の健康的な食生活まで提案する日が来るのかもしれません。